アトピー性皮膚炎発症のメカニズム



「アトピー性皮膚炎」は「アトピー」という言葉が「奇妙な」という意味を持つことからもわかるように、もともと原因がはっきりわからない病気だったのですが、いまだに原因が完全には解明されていないのが現代の医学の現状です。

日本皮膚科学会による「アトピー性皮膚炎の診断基準」によると、アトピー性皮膚炎は以下のように定義されています。

「アトピー性皮膚炎は、増悪・寛解を繰り返す、瘙痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ。」
アトピー素因とは
  1. 家族歴・既往歴(気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎のうちいずれか、あるいは複数の疾患)
  2. IgE抗体を産出しやすい素因

とあります。つまり、「遺伝またはなんらかの原因で、IgE抗体を作りやすいアレルギー体質になることによって発症する皮膚炎」であるということです。

遺伝によるものは避けようがないとしても、後天的にIgE抗体を産出しやすくなる原因はいったい何なのでしょうか。それは、

「水質汚染や大気汚染、食品添加物、環境ホルモンなどの化学物質の摂取やストレスなどによって、免疫機構に異常が起きる」

ことにあるのです。

東京大学医学部の中村晃一郎、玉置邦彦両先生の報告によると、

「アトピー性皮膚炎は慢性の再発性の皮膚炎であり、臨床経過は生後数ヶ月で発症するが、年齢の経過とともに軽快する例が多い。本邦の報告でも生後7ヶ月までに発症する例が29%、3〜4歳児で罹患率が15%、学童8%、大学生2%であり、2歳をピークとして徐々に低下していき、小学校入学時までには全体の70%が自然治癒し、小学校卒業時までには、全体の85%が治癒する。
しかし、中学生まで軽快しなかった症例の中には成人のアトピー性皮膚炎に移行する例もあり、いったん治癒したものが思春期以降に再発してくる例も多く認められる。あるいは20歳以上になってから初発する例も成人アトピー性皮膚炎の約15%を占めているといわれている。
このように成人型のアトピー性皮膚炎も、その臨床経過には個人差があり、また治療に関して成人のアトピー性皮膚炎のコントロールが難しくなっていることが問題となっており、治療のうえでも、アトピー性皮膚炎の臨床症状を適切に捉えることが大切であると思われる。」

とあります。

このことからも、遺伝によらない後天的理由でアトピー性皮膚炎を発症するケースが多くなってきていることがわかります。

しかし、IgE抗体の産生しやすいアレルギー体質になったからといっても、それは単にアトピー素因を持っているだけであり、アトピー性皮膚炎を発症することとはイコールではないのです。

アトピー性皮膚炎は、アトピー素因を持つ人の皮膚のバリア機能が、何らかの原因で低下することにより、その2つの条件が重なって発症するのです。

アトピー性皮膚炎患者の皮膚は正常な人に比べて、細胞間脂質であるセラミドや皮脂膜を構成するスクワレンの量が少ないことが、九州大学医学部皮膚科の古江増隆先生の調査報告などからもわかっています。

セラミドやスクワレンの量が少なくなると、皮膚のバリア機能が低下し角質細胞の隙間からダニやハウスダストなどのアレルゲンが入り込んでしまいます。そのときアトピー素因を持っていると、IgE抗体が過剰産生され、かゆみや炎症を伴うアトピー性皮膚炎が発症するのです。

ではなぜ、セラミド、スクワレンなどが減少するのでしょうか。それは次の理由が挙げられます。

  1. 合成界面活性剤による皮脂膜と細胞間脂質の破壊
  2. 水道水の塩素による角質細胞の破壊
  3. 機械的刺激による角質層の破壊
  4. 活性酸素による角質細胞の破壊
シャンプーやリンス、ボディソープなどは、石油を精製する過程で得られる「ナフサ」を原料とする「合成界面活性剤」を洗浄成分としていますが、この合成界面活性剤は脂質と結合する力が非常に強いため、油汚れを落とす力も強力なのです。
そのため、皮脂膜を溶かし、角質層に侵入、そして細胞間脂質のセラミドを、さらには同じ脂質でできた角質細胞間膜も破壊してしまうのです。

塩素に関しては、細菌の細胞を破壊することで殺菌をするのですが、これが角質細胞を破壊する力を持っています。角質細胞が破壊されると、細胞間脂質が皮膚の外に流れ出てしまいます。

また、近年、特に若年層の清潔志向により、ナイロンタオルなどによって必要以上に皮膚をこすることによっても、角質表面が破壊され、細胞間脂質が減少してしまうことがわかっています。

最後に活性酸素に関してですが、紫外線や科学物質摂取、ストレスなどで体内の活性酸素が過剰になると、細胞間脂質と結合し、過酸化脂質が産生されます。過酸化脂質過剰により、細胞間脂質による保湿機能が低下し、さらに、この過酸化脂質が角質細胞膜を破壊するため、細胞間脂質自体も減少してしまうのです。

アトピー性皮膚炎の発症メカニズムをまとめると、以下のようになります。

●アトピー性皮膚炎は2つの原因が重なって発症する
  1. IgE抗体を産生しやすいアレルギー体質
    • 遺伝によるもの
    • 遺伝によらないもの
      • 環境汚染、化学物質、ストレスなどによる免疫の異常

  2. 皮膚のバリア機能の低下(セラミド、スクアレンの減少)
    • 合成界面活性剤
    • 水道水の残留塩素
    • 機械的刺激
    • 活性酸素

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